NPO考



 1998年に特定非営利活動促進法(いわゆる「NPO法」)が制定され、NPOの法人格取得が可能となったが、この背景には今日の我が国における、多くの社会的な課題に対処するためには、既存の企業や国・地方政府のシステムでは限界があるとの認識があったものと思われる。
 NPO法人を従来の法人企業との対比で見ると、企業が主として株主のために利益を上げるという原理に基づくのに対し、NPO法人は特定の「役割」(ミッション= 社会貢献)を継続的に果たすのが目的である。とはいえNPO法人がその事業を継続・発展させ、存続していくためには赤字経営は許されず、若干でも収支余剰(利益)を生むことは不可欠であるが、生じた利益はこれを分配することなく事業資金として活用しなければならない。NPO法人における"非営利"とは、発生した利益を分配してはならない、という原理であり、利益を挙げてはならないということではない。
 いずれにせよ、企業とは明らかに異なった活動原理に基づいており、NPO法人が大きな社会的役割を果たす潜在力を有しているものとして、その活動に対して、期待と関心を持っていたところである。
 以下では、我が国のNPO法人や担い手としてのボランティア活動に関し、筆者の関心あるテーマを取り上げ、見解を述べてみたい。

[ も く じ ]


 1. NPO法人運営上の課題
 ここでは、企業評価に携わってきた立場から、従来余り取上げられていないとみられる、NPO法人の運営(経営)について取り纏めてみた。

@ 法制化の意味とNPOブーム
 1998年に、いわゆる「NPO法」が議員立法により成立して10年余が経過した。 阪神大震災('95年)に際しての活発なボランティア活動などを背景に、それまでの任意のボランティア活動などの限界を、法人格を付与することで克服し、非営利の社会貢献活動を組織的、本格的に可能にしようというのが、この法律の趣旨であった。言い換えれば、従来型の企業や中央・地方政府等によっては、対応し得ないような社会的課題が簇生するなかで、参加者の都合任せのような、小規模な無償奉仕こそ本来の「ボランティア活動」だ、といった意識や、社会的な位置づけ、認知が不十分なボランティア活動(団体)の段階に留まっていては、それらの課題に対応できない、といった認識があったものと考えられる。
 すなわち、比較的狭い地域、あるいは小規模の、草の根的な活動においても、また、実態は任意団体・グループと然程変わらないにしても、法人化によって、法律上の権利・義務を担うことが可能になることは、活動の円滑化に資するものとしての意味があると思われる。多分数から見れば、このようなケースが現状のNPO法人の多くを占めていよう。一方、現に活動中の任意のボランティア団体が、あるいは新たに社会貢献活動を開始するに際して、ヒト、モノ、カネといった活動の基礎を固め、能動的・組織的な活動を行おうとする場合には、法人化は不可欠である。
 いずれにしても、多くの分野において、活動規模の大小を問わず、非営利の社会貢献活動を促進する必要がある、という認識が広がりを見せた結果、NPO法の成立に至ったわけであり、我が国における社会貢献活動は、制度面で大きな前進をみたことは間違いない。
  当時、経済学・経営学系統の学者が「ボランタリー経済の時代」、「ポスト産業社会への展望とNPOの役割」等々といったアカデミックな(やや観念的な)議論を行ったが、企業経営の評価といった実務的な立場から見ると、NPO法人は、上場している営利企業たる会社制度の欠陥から自由な、新しい法人のあり方の可能性を示した、という点が注目されるのである。
 1980〜90年代のバブル崩壊後、長期に亘る日本経済=企業経営の不振が続いた。この間、順調に推移した米国流の経済運営や企業経営のスタイルをグローバル・スタンダードとして、わが国の企業経営も、これにいわば鞘寄せする方向に急速に変わっていった。会社制度などもそのような観点から改正された。
 確かに従来の日本企業は、高度成長期以来ややもすれば株主を軽視するなどの問題があった。他方、グローバル化は、経営の透明性確保など利点もあるが、企業経営における過度のマーケット、株主志向、短期業績主義などの傾向を齎した。 このような状況下、公的機関による認証によって、社会的な信用力と事業基盤の強化を実現し、マーケットなどの干渉を受けずに、長期的視野に立って社会貢献事業に専念する、営利を目的としないNPO法人が、営利企業と公的部門の中間的な分野を担うものとして期待が寄せられたのである。かかる意味から、NPO法は、2003年には非営利活動としての事業範囲を拡大するという改正が行われたのであり、NPOブームと言えるような状況を呈した。

A 現状NPOの問題
 現在認証NPOは、国、地方合わせて、38千余にのぼっているが、実際に活動しているのは、半分程度との指摘もある。つまり、法律では想定していないような問題点が窺えるということであろう。夙に指摘されているのは、NPO法人は経営(運営)能力が総じて弱体であるということと、財務基盤の脆弱性(資金難)である。
  ただ、ここでは上述の会社制度の問題点を内包しないということの裏腹の関係として、理論的には、その運営に関する監視機能の弱さ、チェック機能が働かなくなる恐れがあるということを、指摘せざるを得ないのである。 個人的には、制度に関わる後段の問題が大変気がかりであり、この点から入りたい。
 従来の会社では、経営者がマーケット、株主などの意向を無視した経営をした場合、株価の下落、資金調達コストの上昇ひいては資金繰りの手詰まり等から、経営破綻という鉄槌を受けかねないリスクがあるが、NPO法人の場合は、そもそも会社におけるようなステイクホルダへーの介入を排することにより、当該社会貢献事業に専念することができるという、制度設計になっているわけである。
 しかし、NPOは非営利の立派な使命を担っているのだから問題はない、との楽観的、性善説的あるいは、理念先行型の立法の限界なのかも知れないが、運営に関するチェック機能という観点、仕組みが弱いのである。例えば、会社法などに比べると「監事」に関する規定が通り一遍である。また、会社で言えば株主に似た位置にある「社員」は、NPOの特性として自由に誰でも参加できるようにすることに重点が置かれているのは当然としても、経営監視的な役割は予定されていない。 それどころか、NPOにおいては、意見が合わないといったことで「自主的に」社員を辞めてしまうことは、いとも簡単である。かかる意味で、NPO法人の基盤は、内在的不安定性と脆弱性を有するのである。NPOの場合、外部の監視機能としては認証官庁があるが、報告義務を怠ったり、明らかな定款違反や法令違反などが明らかにならない限り、介入することはない。
  一方、会社の場合は、企業価値=株価が株主の資産価値に直結するだけに、真剣に経営を注視するインセンティブが機能することは事実である。
 以上の考察からすれば、NPO法人が閉鎖的で、透明さを欠く、あるいは不明朗な運営となる危険性は否定できない。現に情報公開がNPO法の大きな狙いであるにも拘らず、Web上で決算情報を公開しているNPOは殆どない。NPO法で同族関係者の理事就任を制限しているのは、同族による私物化を防ぐ趣旨であろうが、これだけでは不十分である。
 そこで、次に経営能力についてみてみよう。任意のボランティア団体が、単に看板を法人に書き換えただけ、というのであれば、従来通り共通の目的で集まるボランティアの人を束ねる能力があれば、最低限の報告は必要としても、いわば個人商店のような運営(ワンマン、丼勘定など)でも構わない、あるいはその方が機動的・効率的で良いという考えもあろう。また、NPOが成功している例には、しっかりした思想を持つ(場合によっては個性的な)リーダー、あるいはsocial entrepreneurshipの担い手(社会起業家)が主宰している場合が少なくないようである。
 ここでは、法人化によって活動を活発化しようとする一般的なケースの場合、組織的な経営能力(法人運営のシステムとマネジメント能力の両面) が問われるということを指摘したい。運営に関するチェックシステムが不備な制度の下で、適切な運営を行うには、何よりも経営能力を高めるしかないであろう。そのためには、まずチェックシステムの確立を含む組織的運営可能な内部管理体制の整備が必要である。法人化したものの、中身は従来通り、というケースが少なくないよう仄聞するが。
  もう少し敷衍して言えば、当該法人のビジョンや目標を明確化すること、そしてその上で、役員、事務局職員、あるいはその他の法人内の組織などにおいて、それぞれの分担、責任と権限を明確化し、意思決定に際しては、何を誰が(あるいはどのような場で)、どういう方法、根拠で決めたか、ということが明確になるような、仕組みを確立することが重要であり、そのための基準や規定類を目に見える形で整備しておくこと、ならびに検証可能な記録を残すことが不可欠である。
 さらに、内部・外部の各種情報 の流れに関するルールを決め、そのルールによって情報が一元的に管理される仕組みをつくっておくことも不可欠である。同時に、報告・連絡などが必要に応じてタイムリー、的確に行われるようなルールと風土・雰囲気を作る必要がある。
 別の角度から言えば、会社と違って、程度の差はあれ、ボランティアに依存する限り、メンバーの変動は不可避であるからこそ、人が代わっても活動を継続できるような態勢づくりが必要なのである。実際は、「ボランティアは会社と違う」で片付けられたり、人もいないのだから、組織としてなどと言っておられず、属人的な仕事のやり方にならざるを得ない、しょうがない、といった認識にとどまっている場合もあるのではないか。これではマネジメントの不在である。確かにNPO法人の運営は、制約条件が多いし、容易でないのが実情で、試行錯誤の段階にあるケースも少なくないであろうが、制約条件を克服するというスタンス(言い換えればマネジメント感覚)がなければ、前に進まないし、法制定の意味も減殺されよう。
 以上のようなことを可能にするには、理事長など責任者が構想力等の見識を持っていること、及び適切なリーダーシップを発揮することが必要である。同時に、NPO法人で唯一経営チェック機能を果たしうる監事の重要性が、運営の中で理解され、かつ監事自身がその自覚を持つことが不可欠である。また、やり易いからといって、予め会員(社員)の増加を抑えているNPO法人の例は、NPO法の趣旨からは如何なものか。会員が離反していくような事態を避ける運営が必要なのである。
 いまひとつの問題点を挙げれば、コスト意識であろう。あるサービスをNPOが提供する場合、競争がないような状況下では、「非営利」を誤解してコスト意識が看過されてしまう可能性は否めない。また、官公庁の事業を受託する場合にも問題があり得る。すなわち、競争入札が行われた場合でも、受託金額、仕様書の範囲内で活動すればよく、その限りでコスト意識は希薄化する可能性がある(外郭団体と同じこと)。指定管理者制度においては、3〜5年間は収入が保証されるという、ある意味で恵まれた状況下で緊張感を持ちつつ、サービスの向上とコスト意識を持続していくことが必要である。その意味でも、指定側からすれば次回指定から外されるかもしれないという強迫観念を与え続けることが肝要となるわけだ。この場合マーケットに替わるものとして、タックス・ペイヤーとしての「市民」、その代表としての議会の存在があるが、会社と株主のような利害を伴う経常的な緊張感には乏しいため、その存在を忘れがちとなる可能性がある。

B NPO法人の信用力と中間支援団体の役割
 前項で触れたように、現状NPO法人は認証されたもののうち、実稼動が半分としても2万に近いものがある。各分野での精力的な活動により多くのNPO法人が着実な評価を得ているとみられる一方、全体としてその数に相応しい存在感が得られているかどうか、という問題があることも事実であろう。法律ができてから、まだ10年で、試行錯誤的な段階という面もあり、性急に断定的な評価を行う段階では必ずしもないとはいえようが、官による規制を極力緩める、との観点から、明らかな問題がない限り認証している結果、事業実施能力が伴わないNPO法人が続出し、半分位しか活動していないのが実態であるとしたら、NPO法人制度に対する国民的信頼の低下を齎すと言わざるを得ず、認証のあり方に工夫の余地があるといわねばならない。
 また、不正請求などの事件が度々起きているのは、先に述べた運営の不透明性とチェック機能の欠如、あるいは経営能力ないしコンプライアンスを含むガヴァナンスに問題があることは事実と言うほかない。さらに、NPOを隠れ蓑にした暴力団などの資金集めも珍しくないようである。今後とも、真の目的を隠蔽した団体が現れる可能性は否定できまい。全体から見れば、数は少ないとしても、これらがNPO法人ひいてはNPOそのものの評価に影を落とすことになる懸念もなしとしない。
  次に、資金調達力に直結する経営能力と信用力という点について触れておきたい。その場合、金融機関の信用力についての考え方が参考になる。 法人化により、財務基盤を強化(資金を確保)し、社会貢献活動を本格的に行いたいと思っても、経営能力を伴う実績が見込めなければ、まず金融機関は相手にしないし、寄付金を出す側でも躊躇するであろう。金融機関が信用供与を行う際、事業計画の信憑性とその遂行能力は当然のこととして、理事会メンバーのまとまりやリーダーシップ、識見、能力など運営全般が信頼に値するかを最も重視することは知っておいてよいであろう。事業計画については、会費収入などの自己資金の確保を含む実行可能性と、そのための戦略を示すことが肝要であることは言うまでもない。
 また、寄付金に関連して、経済同友会のレポートでは、「寄付はしたいが、信頼できるNPOを見つけられない」、「集めた資金が何に使われているかわからない」といった声が根強いとの指摘がある(「社会改革に挑むNPOには優れた経営者と志ある資金が必要である」、2005年7月)。
わが国の寄付金税制が不備であるにしても、寄付金が集まらない理由として、NPO側が寄付金税制を問題にする前に、当該NPO法人が透明性のある信頼できる経営をしており、寄付金の使途=事業計画そのものの納得的な説明、言い換えれば寄付をする側が株主に説明できる説明力を持つことが重要であろう。法人化による信用力とは、そのようなものなのであって、単に登記によって形式的要件を備えれば済むようなものではない。
 資金が調達できれば社会貢献事業も拡大できるのに、経営能力が低位のためにこれが難しいとなれば、法制化の趣旨は生かされないと言わざるを得ない。やはりNPOはその程度のもの、我が国の経済社会の中で、営利企業と公的部門の中間的な存在として、それぞれの限界を補完する新しい法人組織たる、などは夢であるということになってしまう。社会貢献活動にかかる事業を行うとされているNPO法人であれば、事業の円滑な推進・発展のためには、いわゆる事業系、運動系あるいは慈善系の別なく、一定の経営能力の維持は不可欠である。(因みに、運動系や慈善系は、それ自体としては収益力がないことから、事業系以上に収益確保の感覚を持つことが必要、というややパラドキシカルな面がある。)
 そして、NPOの中間支援組織にとつても、この分野における支援活動が、NPO活動の円滑な推進と、その存在感の向上に大きく寄与するものとして、大変重要かつ本来的な役割と考えられる。
  ボランティアエコノミー、ポスト産業社会とNPOといった議論は、失われた10年といわれるわが国経済の長期停滞の中で、耳にすることはなくなったが、将来に向けて、NPOによる社会貢献活動が現代社会に一定の地歩を築くことを目指すことは、依然として大いに意義のあるところであろう。
(2009.10)


 2. ボランティア活動と自己実現 
・「『ボランティア団体』で『ボランティア活動』をする」という、よく耳にする表現について考えてみたい。
 その意味するところは、当人の趣味などとは違う、何か「世のため・人のために」なる活動、いわゆる「社会貢献」活動を、それ自体を目的として自主的に行う、ということであろう。そして、通常そのような活動を一括りにして"NPO"活動と呼んでいるようである。
 筆者の住む鎌倉市においては、市民の税金で「NPOセンター」という施設を建設し、かつ毎年の運営費も税金から支出して、会議室の無償提供(実質的な税金による室料補助)などを行っている。このような施策が市民(議会、納税者)の合意を得ているのは、税金が非営利の社会貢献活動に専ら使われることにより、直接的あるいは間接的に市民、あるいは社会に貢献することが期待されているからに他ならない。すなわち、このような形で公益的な市民活動を市民全体が支えているのであり、その前提としてNPO(法人)の情報公開が求められているわけである。
・そこで、まずNPOというものの定義を抑えておこう。一般的な要件としては、「自己統治」により、かつ何らかの形で「自主的=ボランタリー」な市民参加を含んで運営される、「非政府」の「正式な組織」であり、その事業活動によって得られた「利益を分配しない」団体、ということで異論はないはずである。ここで重要なことは、NPOにおいてボランティアは、不可欠なものであるが、要件の一つを構成するものだということである。
 一般に「団体」とは、一定の共通目的をもって人が集まり、その目的に向かって活動するものであり、団体が法人格を有するときは、明らかに一つの実在である。いずれにせよ、団体を運営するというとき、そこには当然運営のための何らかのルール、あるいはマネジメントというものが不可欠である。NPOでもこのことは例外ではないのである。そして、NPOにおいて「ボランティアで活動を行う」とは、当該「団体」の目的に共感し、その活動へ自主的に参加する際の「形態」 のことだということである。
 以上からすれば、ボランティアで参加するのだから(あるいはして貰うのだから)自分の好きな時に、好きなことをやってよい(そうでなければ辞める)、NPO=ボランティア団体とはそういうものだ、あるいは会社と違うのだからマネジメントなど不要、といった向きがあるとすれば、それはNPO=団体というもののあり方と参加の形態に関する基本的な考え違い、ひいては組織としての存立の自己否定につながるものなのである。なお、付言するならば、メンバーの意見をよく聞こうとしないとか、独断専行といった、マネジメントそのものに問題がある、あるいは拙劣なケースの場合も、団体の持続性そのものの問題となろう。
 多くのNPO(法人)は、その団体に参加した人たちが額に汗して事業を行い、自ら収益を稼得して何とか成り立っているのが実態であり、その真摯な取り組みに頭の下がることも少なくない。そのようにして着実に行われる活動が諒とされたところにのみ、助成金や寄付金が齎されるのである。
 一方、我が国のNPO法人のかなりの部分が、自治体等の指定管理を含む実質委託事業を行っているのが実態であり、自立したNPOとは称し難いとの指摘がなされているが、このようなケースにおいて以上のようなボランティア論が出易いよう窺われる。一種の公的部門の変形と捉えれば、その間の事情は見えてくるというものであろう。
・さて、自主的に(多くは実質無償で)「世のため・人のために」活動するとは、要するに「他のため」、言い換えれば「奉仕」が基本原理であろう。このような考え方は、改正学校教育法において、「ボランティア活動など社会奉仕体験」という表現により、ボランティア活動を社会奉仕活動の一つの形態として正しく捉えている、国の姿勢にも見ることができる。
 次に、社会貢献活動と「自己実現」との関係を考えてみよう。そもそも「自己実現」とは与えられた能力を十分に発揮する、といった「自己のため」、「自分の生きがいのため」になす世界である。また、「自己実現」とは、貨幣価値に換算し得ない、人生で最も貴重な報酬と言えるものであろう。
 そこで、「『自己のため』に『他のため』に活動する」、と言ったら意味不明であろう。実は、世上耳にすることがある、「自己実現のためにNPO活動などの社会貢献活動をする」という表現は、これを言い換えたものである。結果としての自己実現性とは全く別の議論である。前項でボランティア活動に関する考え違いの問題を指摘したが、この問題の根本はここにあるのである。
 因みに、3.11東日本大震災の直後、被災地仙台の東北大学教授が、「自己実現のためのボランティアはやめて」という書き込みをされていた。人によっては、乱暴な、あるいは衝撃的な物言いと受け取られたであろうが、以上の文脈をもってすれば容易に理解できることである。あの大混乱の修羅場たる現場からの、重みのある発言であり、傾聴せざるべかざるものといえよう。
・やや古い調査だが、わが国におけるボランティア活動への参加率は、30〜40歳代では女性が高く、60歳代以上ではこれが逆転する。そして、60歳以上参加者の参加理由の第1位(7割弱)が「自分自身の生きがいのため」となっている。また、職業別では、第1位が「主婦」、次いで「定年退職者」、といった結果が報告されている。
  今後わが国ではリタイア期を迎える人が一層増加することが見込まれている。それに伴い、いろいろな目的・動機をもって「ボランティア活動」に参加しようとする人が増加することも、ほぼ確実視される。
 社会貢献活動の担い手が増えること自体は、「我欲」に傾き社会的連帯感が希薄化した日本社会において、貴重なことと言わねばならない。その際重要なことは、以上述べたNPO・ボランティア活動に係る基本原理と、参加者の意図にみられる、多分日本的な特質を踏まえた上で、それぞれのNPO(法人)の目的を継続的に実現していくための運営ノウハウを積み重ねることが肝要だということである。ここには、報酬を稼得するということによって参加者(役職員等)の生活基盤となっている企業とは異質の難しさがあるのであって、意識的な努力が求められる。そして、このことはNPO(法人)が、社会的責任を伴う継続的な事業の経営体として、日本社会において確固たる存在感を示すようになるために、是非共必要な条件だと思われる。
・なお、今次大震災の支援活動においても、ボランティアの活動が注目されたが、その後の経過を見ると、リピーターが多いという特徴はあるものの、阪神大震災のときに比べ勢いに欠けると言われている。印象に過ぎないかもしれないが、若者の積極的な活動が目立っているように見えるのと、今回は、一部企業が現役社員(パワーも組織力もある)のボランティア活動を奨励しているケースがみられるといった特徴が窺える。ボランティア活動に企業の支えがあるというのは、何とも日本的特徴だろう。いずれにせよ、ボランティアの面から、大震災を契機として日本社会が変容する兆しを読み取るのは難しかろう。
(2011.10(2013.4一部修文))


 3. 助成金有効利用のために 
(はじめに)
 1998年にいわゆるNPO法が制定され、NPO法人による活動が我が国経済社会に定着するに従い、民間企業をはじめ、国・地方自治体などの公的機関、ないしはそれらの出捐・出資によって設立された財団・基金、外郭団体等が、NPOなどによる社会貢献活動の促進を期待して、広範囲にわたる助成活動を行っている。 その中心は、民間企業がCSR(企業の社会的責任)経営の一環として行っているもので、これまでの動きを見るに、経済情勢の変動下においても、助成活動には縮小する動きが見られないのが特徴的と言える。
我が国NPOは、総じて人材不足、マネジメント能力及び資金調達力における難点などの問題を抱えているが、助成金の活用は、資金調達力の問題を克服し、社会貢献活動の基盤強化、あるいはその円滑な実施、ひいては一層の拡大を図るための有力な手段である。
 ここでは、その活用にあたっての留意点について述べてみたい。  

1 助成金申請の前に〜助成機関選び
@ 各地のNPO支援団体、自治体等が提供している「助成金情報」にみられるように、数多くの機関(基金)が、多彩な助成活動を行っている。
ここで、助成金を支給する機関(基金)を分類すると、以下のようになる。
a. 国(政府)及び政府系機関
b. 地方公共団体及びその外郭団体
c. 財団法人、NPOなどの各種公益法人
d. 民間企業又は民間企業が設立した公益法人、基金等
 提出を要する申請書類の内容(量・質)などは助成機関によりまちまちであるが、公費を使う公的機関がより厳格さを要求するのは当然ではあろう。民間企業でも、公的機関並みの資料を要求するところもあるが、弾力的対応が期待できる面もあるよう見受けられる。
A いずれにせよ、各助成団体は、それぞれの目的に沿ったテーマを設定し、特定分野の一定期間の事業(活動)を選定し、助成対象としているので、まず自分たちの事業を応援してくれそうな団体を探し、「募集要項」を入手することが第一である。
その場合、
a. インターネットで助成金を紹介しているサイトにより検索するのが、最も容易な方法であるが、
b. 親身になって相談に乗ってくれる地域の NPOセンターなどのサポート機関があればその活用も有効であろう。
c. ただ、サポート機関に相談するにしても、インターネットの活用は不可欠である。 募集要領、申請用紙の入手のみならず、申請に際し、事前登録や受付をインターネットに限っている例も珍しくないのが現実である。
B 仮に同じようなテーマを標榜していても、各助成機関の重点分野など方針の違いから、助成先の選定基準は当然に異なっている。したがって、募集要項を読んだだけでは、具体的にどのような事業が対象になるのか、自分達の活動はどうなのか、といった点が必ずしも明らかになるとは限らないかもしれない。一方、多くの助成機関のホームページには、前年度までの助成実績(団体名、対象事業名と内容、助成金額など)が掲載されているので、これを参照することにより、かなり具体的なイメージが湧くと思われる。その上で、電話で問い合わせたり、可能であれば面談により相談するのも良いであろう。助成団体によっては、事前説明会や合同相談会が行われることもあるので、そのような機会の積極的な活用も有効である。
いずれにせよ、前広に情報を得ようとする姿勢が望まれる。 
C 助成金の募集時期(締切日)は、機関によりまちまちであるが、時期的に多いのは、企業の本決算や中間決算期を終えた後、即ち5〜6月と11〜12月頃である。また、募集の開始に関しては、事前に募集開始日を告知するタイプと、募集開始と同時に告知するタイプとがあり、多くは後者のタイプのようである。告知の方法は、殆どが助成機関のホームページの「ニュースリリース」欄である。
ただ、募集期間は短期間の場合も珍しくない。また、募集期間が前年の時期から変更となる場合も見受けられる。従って、助成金を得ようとする場合、作業計画をスケジュールに入れ、早めに情報を得るような努力も必要である。

2 応募資格と事業実施能力、事業計画
@ 助成金の応募資格として、法人格を有する団体、あるいはNPO法人に限定しているケースも見られるが、法人格の有無を問わないとするのが大勢である。逆に、資金調達が最も困難な団体に目を向けようという姿勢から、法人格を有しない小規模団体に限定している場合もある。
重要なことは、助成対象となる事業を確実に実施できる体制になっているか、ということであり、その意味で事業実施能力や事業計画に説得力があることが求められるのであり、法人化したからといって、実態が伴わなければ、助成金受給に有利になるというものではないのである。法人化に際しては、単なる事務手続きの負担のみでなく、今後の活動展開の展望を踏まえた上で、寄付金税制などの施策の動向や、NPO法人制度に関する社会的な信頼性・期待といったものを総合的に勘案して決めることが望まれる。
A さて、助成機関は、応募してきた事業に関し、募集の趣旨に沿っているか、の判断は当然として、社会貢献度・重要性の高いものから採択する(助成対象を決める)ことになる。その際、当該事業が確実に遂行されることが重要であり、その判断基準として最も説得力のあるのは、申請団体のこれまでの事業実績である。1年ないし3年の活動実績を条件にしている機関が珍しくないのは、そのためである。
また、毎年の事業計画を、事業目的・趣旨が明確で、実行可能性の確かな対外的にも説明力のある、しっかりしたものとして策定しておくことである。なお、助成対象期間が申請側の事業期間と一致しなかったり、次年度にまたがる場合もあることから、可能な限りやや長期的なスパンでの事業計画の展望も必要となろう。
事業実施能力の判断項目として、対象とする事業(プロジェクト)全体の資金調達に関し、助成金以外の会費・寄付金等の自己資金の確保を義務付けたり、場合によっては借入金の調達可能性も事業遂行能力を判断する重要な材料にすることもある。
 任意団体に関しては、代表者の定めがあること、団体としての意思決定を行う体制になっていること、決算書類が整備されていること、連絡窓口などが整備されていること、などを明示的に条件としている例がある。 NPO法人に関しては、認証審査を受け、団体としての資格証明ができていること、所管官庁への報告など最低限の書類等の整備もなされていることなどから、いわば入口段階の審査の手間が省けるわけで、メリットは少なくない。
B 最近話題の「一般社団法人」について触れておきたい。実は一般社団法人を助成対象から除外するケースが見られるので、注意が必要である。この制度は、従来の公益法人の「公益性」と「非営利性」を分離し、登記により簡単に社団法人になれるようにしたものである。すなわち、剰余金の分配を目的としない社団について,その行う事業の公益性の有無にかかわらず,準則主義(登記)により簡便に法人格を取得することができる制度である。いずれにせよ、当然には公益性を担保し得なくなったために、対象から外したものと思われ、今のところ数は少ないものの、一般社団法人の活動のありよう如何によっては、この傾向は広がるかもしれない。なお、一部に簡単な手続きのみに着目し、NPO法人よりもこちらを慫慂している向きがあるが、設立後の手続きを顧みない例もみられることを問題視する声を聞いたことがある。
 
3 内部管理体制の整備
 また、助成機関の審査を受けて助成金を受けようとする以上、本来は法人格の有無に関わらず、ある程度以上の実務能力(内部管理体制)の整備が望まれる。ただ、運営体制の整備が追い付いていないのが多くのNPOの実態でもあろう。
一方、地域のNPOに対する中間支援団体が、助成機関の選定から申請書類作成に至るまで、相談に応じる態勢を用意している場合もあるので、これを積極的に活用することが考えられる。また、助成機関の指導などにより、手続きを進めていく中で学習し、習熟していくという面もあるので、まずは挑戦してみることをお勧めしたい。

4 応募と受給が決まってから
@ 助成金の応募は、決められた申請書類を作成し、提出することにより行われる。申請書類の作成に当たっては、言うまでもないことであるが、募集要項をよく読み、団体の助成活動の趣旨・考え方を理解することが必要である。
募集側の着眼点としては、助成金を申請する対象事業(活動、プロジェクト)の社会的ニーズ、NPOによって行わなければならない緊急性、波及効果といった点ががポイントであり、それに応えるような、訴求力を持った書き方が望まれる。対象事業の「効果」については、実績を踏まえた計数的な説明があると説得力が増すであろう。なお、自分たちは社会に役立つ活動を行っているのだから、理解される筈だといった姿勢ではなく、読む側の立場に立って、理解・納得し易いような書き方に努めることが肝要である。
A 応募を受けて審査が行われるが、書類審査中心で先方からの架電問い合わせですむ場合、出向いてヒアリングを受ける場合等がある。
首尾よく助成金の受給が決定すると、爾後の手続きや報告事項等の指示がある。
 万一事業が計画通りにいかなかった場合、申請した使途とは異なる内容となった場合は、それが明らかになった時点で速やかに助成機関へ報告し、指示を仰ぐ必要がある。資金使途が異なることになった場合、交付された資金を一部返納する必要が出てくる可能性もある。
計画通り、助成対象事業が完了したら、一定時期までに助成対象事業の完了報告をすることになる。受給機関が一堂に会して、発表会を開く場合もある。 
B 完了報告提出の際、領収書の提出は必須である。提出を受けて、資金が申し出通りに使用されたかどうかをチェックする監査を行う機関もある。募集要項の記載内容は、機関によりまちまちであり、監査を募集要項で明示しているところは多くはない。資金交付後のことは、受給決定時の指示によるところが多いものと思われる。
いずれにせよ、資金が目的どおり的確に使われていることを明確にするため、証憑書類などを整理・保存しておくことが重要である。すなわち、申請書類に記載された費用とそれに対応する領収書を分かりやすく整理しておく必要がある。その際、助成機関からの指導がなくても、当該助成金専用の別口預金を開設し、当該口座を通じて資金支出を行うことにより、資金の流れを明確にしておくと、使途監査が行われた場合の説明もし易く、好都合であり、助成機関からの信頼度も増すことになるので、お勧めしておきたい。この点に関し、募集要項に規定している例は殆ど見かけないが、厳格に規定している「ジャパン・プラットフォーム」の例を、参考までに示しておく。

助成金の交付と管理
・事業ごとに無利息口座(決済専用口座)を開設していただきます。ただし口座の制度上、ゆう ちょ銀行およびインターネット銀行は使用できません。
・助成金受領口座への入金を確認いただき、通帳の入金が確認できるページのコピーと領収 書(口座入金日の日付。印紙不要)をJPF 事務局宛てご送付ください。
・助成金は、原則として契約時に助成金振込を行った専用口座内にて管理して下さい。専用 口座では、事業開始から監査・残金返金までの一連の手続きが完了するまで、助成金以外 の資金の出入金は行わないでください。
・利息が発生する口座に移し、利息を得ることは認められません。止むを得ない事情により利 息発生口座に移して管理する必要がある場合は、事前にJPF 事務局にご相談下さい。


(2014.12.)
BGM:R.ホフシュテッター「ハイドンのセレナーデ」(サイト「あこず音快堂」)